夜になっても読み続けよう。

地位も名誉やお金より、自分の純度を上げたい。

絶歌~6.黒い羊の定理~

熊沢は
社長の質問には直接答えず
再び話をずらした。


「手記の父親パートですが

『……でした』
『……がありました』

と朴訥と言うか
言葉での表現が苦手な方です。

家庭では妙に影が薄いんですが」


「『男や父親としての
ロールモデルにならない』

とかゆーやつね」


「社長、


『黒い羊の定理』


をご存知ですか?」


「いいや」



「イジメの原因にもなる心理です。

例えば
ケースとしては少ないですが、
社会的地位の高い両親の子供のうち
両親の反社会的な事に対する願望を
子供が悟って
両親の深層心理そのままに
反社会的な人間に育つ。


そこまで行かなくても
女児の場合、
圧倒的に過食症拒食症リストカットが多いんですが、
こうした精神というより『心の病』を抱えた子供は
たいてい長女です」


「それも『親の願望』な訳?」


「こうした病気の子供の両親は
たいてい不仲で
父親はAのみたいに影が薄いかDVだったりします。

考えてみても下さい。


『お母さんはあなた達のために我慢しているのよ』

『将来はお父さんみたいになっちゃダメよ』


と毎日のように言われたら?

長男長女はたいていが『いい子』でい、ようとしています。
そうした親の確執を敏感にすくってしまっていたら?」


「あああああああっ‼


母親って
そういう事をするんだよな。


それって

『あんた達子供がいるせいで
ワタシは幸せになれない』


と同義だよ!


そりゃ、子供も
メシ食わなくなったり
リスカするようになる。


父親にもいるけどさ、
リカちゃんハウスでお人形ごっこ


してりゃいいのに」


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「そうです。
女性はお姫様になりたい。
結婚したらなれると思っていたのに
あっさり裏切られる。

生活やお金が自分を所帯臭い『ただのオバハン』にしていく。

息子が産まれた!

この子は特別。


この子を『理想の男』に育てよう!



これが大概のアホな母親の心理ですね。


Aの母親は
それをさらに斜め上を行く


万引きや傷害は
思春期の男子によくある事ですから!


で済まそうとしていた。


床下から斧が出て来たけど
金物屋に売ったし」


「…………………………………………『斧』?」


「タンスからAV出て来たけど、
お父さんと一緒に見るならいい
と言ったし」


「………………………………………………………………普通、
父子で見る?」


「子供を三人産んでるって事は





最低、三回はスケベの結果





なんですが
女親のこうした
性に対する気持ち悪さが何とも」


「……………………僕の母親は
ベッドの下に隠しておいたエロ本、
発行年月日順に並べ替えてくれてたよ」


「社長のお母様も
社長が思春期を向かえて
子離れなさったんでしょう。





Aの奇行は単なる個性。


そして
淳君が失踪する。


学教区なんで
地域の結束は固い。


淳君の家に上がり込んで


『進展がないわ~。
あ~退屈~』







たまごっちで遊ぶ。






公開捜査を警察から進められて
親戚が来る。


追い出された母親は
他の家に上がり込んで
ない事ない事を話す。


息子が不登校になってるのは

『本人の意思で能動的に学校をボイコットしてるだけ』。


成績は…………んー、進学校は無理と言われた。

でも息子は絵が好きだし。

そうした方面に個性を伸ばせばーー」


「待て。


何なんだ?


『中卒で入れて
将来、自活出来る絵の学校』


って。


映画館の看板や
銭湯の壁の富士山は
きちんとしたルートが存在するのに」


「しかも
それをAに言う。

あんたはやれば出来る子だから。

今は本気出してないだけだから。



何かが
ストレスと一緒に溜まっていく。


1滴、1滴と。


そう言えば、
2月に三年生の女の子に……まあ、実害なかったし、
興味の出る年頃だし。


問題を直視しなければ
厄災はふりかからない」



「へ?
何?
2月の何だって?」


熊沢は
夥しい新聞や雑誌のコピーから
何枚か抜き取り、
社長に投げて寄越した。



「『最初の被害者』です」



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想い出のリカちゃん (らんぷの本)

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〈続く〉