夜になっても読み続けよう。

地位も名誉やお金より、自分の純度を上げたい。

「鬼滅の刃」の社会学~その8 嘴平伊之助~

淋しいという言葉を知らなかった


去年はありがとうございました。
今年も当ブログをよろしくお願いします。
スターやお気に入り、励みになっております。

さて、新年の挨拶に相応しいキャラ。
伊之助は、主要キャラの中でひじょうにシンプル、ゆえに感情移入が難しいキャラです。

赤子の時に母親に捨てられて、猪に育てられたという、過酷な幼少期を送ってきたと推察されます。

たまに会う、おかきをくれる老人と孫のおかげで、ヒトとしての言葉や振る舞いを覚えていますが、育ての親が死んでからは一人。

雨の日は狩りにも出掛けられず、住処の洞穴で膝を抱えていたのでしょうか。
寒い夜、暑い昼間、何処かで一人、それを凌いでいたのかも思うと、涙が出ます。

特徴ある、あの猪の被り物は、初期の伊之助に取ってはペルソナです。
泣きそうなくらい飢えてる、辛い、淋しい、そんな物を隠してくれる仮面です。
それが、鬼殺隊に入ってからは、時々外すようになります。
素顔は女性と見紛う美少年ですが、それはさておき。

戦いの時には、しっかり被り「山の王」になりきります。

本当の意味で、捨て子ではないのではないか、と善逸に指摘されるシーンがあります。
母親の顔も覚えていないし、手がかりもない、何より子供を捨てるような母親なんか要らないと、伊之助が憎しみを吐露するシーンでもあります。

しかし善逸の推察通り、母親は、伊之助を捨てたのではありませんでした。
生き延びて欲しいと、一縷の望みをかけて手放し、自分は鬼に殺されています。
最終決戦で、それを知らされ、癒されます。

最初は、禰豆子の入った箱を問答無用で斬ろうとしていたのに、最終決戦では鬼化した炭治郎を斬れず泣きます。
説明するまでもなく、情感が育ち、「山の王」から、いつしかヒトになっていたエピソードです。

山の中での孤独しかない生活から、仲間とのツッコミツッ込まれな雑談の楽しさ、自分の身を案じて叱ってくれる人、見返りを求めず助けてくれる隊士達。
「一人で生きて行くんだ」
と閉ざしていた心を、緩やかではありますが溶かしていく姿は感動です。

そもそも、「世間が言うから」「みんながやってるから」といった、しょうもない先入観や固定観念が、伊之助にはありません。
最初は感情だけで動いていましたが、ロジックも覚えて行き、仲間とチームでフォーメーションを組んで戦う事の強さを学んで行きます。
この「人としての素直な成長」が、見ていて清々しいほどです。

伊之助もまた、禰豆子に若干近い存在ですが、他者との関わりの中での変化し、心地よいと思ってしまう自分に戸惑いつつ(「ホワホワさせんな」)、それを受け入れていきます。

伊之助は「準主役」であり「トリック・スター」の典型例でもあります。
が、物語を転がす役割は少なく、「スパイス」のような役割が多いです。

意外かも知れませんが、本能や欲求、感情で動く姿は、何事も無難な炭治郎を補完しています。
また、山での暮らしのせいか、生死や理不尽に対して達観している所もあります。

一見、幼稚なようでいて、深淵な考察をしたりと、大人な部分もあり、そこに驚かされる事があります。
何より
「他者に迷惑をかけないマイペースさ」
が不思議です。

育ての親である猪が死んでからは、孤独な日々を、飢えや怪我と戦いながら過ごしてきた伊之助には、「自分の幸せは自分で決める」といった強さがあります。

この「尊大な野生児」はシンプル過ぎて、感情移入がしにくいのですが、それも「野生児」ゆえでしょう。

美少年だし。うん。

次回から「柱」編です。