「鬼滅の刃」の社会学~その10 甘露寺蜜璃 伊黒小芭内~
普通でない普通の女の子
怪力、大食漢、桜餅色の髪と、いかにもアニメ映えするキャラの甘露寺。
その怪力と外見で、疎外感と低い自己評価を持っています。
鬼に対して思う所もなくて、鬼殺隊に入隊した動機も
「一生を添い遂げる殿方を見つけるため」
と異色。
けれど私には
「そのままの自分を認めて欲しい」「居場所が欲しい」
という悲痛な願いが聞こえます。
何より問題なのは、この時代の女性の生き辛さです。
人格を偽わらないと結婚も出来ないし、仕事を持って自立するにしても、職種は限られています。
少しでも規格外の体格やキャラだと「普通」という物から弾き出され、「働いて生きていく」という事もままなりません。
大正時代になって「職業婦人」と呼ばれる女性が現れました。
しかし、これは、事務や百貨店の売り子のような、いわゆる「職場の花」や、タイピストや看護婦などの専門職ホワイトカラーしか指しません。
第一次産業や紡績工場の女工は含まれず、甚だ差別的な言葉です。
活動写真や歌劇に人が集まり始めたので、甘露寺が映画女優になっていたら、さぞかし人気が出たと思います。
結婚に夢を抱いていた甘露寺は、最初の見合いでクソミソ言われて破談。
相当なショックを受けてます。
その後、髪の色を黒く染め、ブッ倒れる寸前まで食事を我慢します。
かいあって、自分を望んでくれる相手を見つけますが、結局は結婚せず、鬼殺隊に入っています。
鬼殺隊には、彼女の怪力も柔軟な体も、素晴らしい資質だと褒めてくれる人がいて、何より表立って悪口をアレコレ言う人がいません。
以前は否定された自分を、いろんな人がすごいと言ってくれます。
蛇柱の伊黒小芭内は、甘露寺に一目惚れしていて好意を隠しません。
そのままの自分を見てくれる人物がいる、それが大きな救いとなったのが分かります。
そんで、このキャラ、同じ女性から見ても可愛いんですわ。
真面目だし素直。
明るいし天然。
そして、次の人物とセットで語りたい人です。
怨念漂う好青年
伊黒小芭内の生育歴は、「虐待サバイバー」なんて物じゃなく、ハッキリ「犯罪被害者」です。
煉獄父上に助けられるまで、生け贄として育てられてます。
自分がセレブな暮らしが出来れば、産んだ子供も平気で犠牲にする、「オンナの生臭い欲望」に辟易したのも分かります。
しかも、生き残った一族の一人は、残った財産でいい家に嫁に行き、やはり裕福な生活をしているというガッツ溢れる強さ。
女という生き物は、伊黒に取ってはバケモノ。
幼少の煉獄兄弟に触れて、そこから人との関わりを増やして行きますが、甘露寺には、過去を感じさせない優しく接しています。
本来、女性が怖いハズなんですが、だから天真爛漫で裏表がない甘露寺に惹かれたのでしょう。
しかも、甘露寺に対しては好意を隠しません。
粘着気質と言うより
一途。
これは惚れられた女性も受け入れます(多分)。
好きな相手の幸せのためだけに生きてるような、騎士みたいな人です。
彼は自身が「汚れている」と思い込んでいますが、甘露寺と居る時は、普通の青年としてリラックスして過ごせます。
この「そのままの自分を受け入れてくれて、なおかつ、のびのび出来る」という相手を求めている点において、甘露寺と同じです。
定食屋で山のようにパクパクと食べる甘露寺を見ながら、ニコニコしている伊黒、何とも微笑ましいです。
ですから、甘露寺と二人で来世を約束し、い抱き合って最期を迎えたのは…………うっうっうっ(号泣)。
この二人は一人一人で語るより、互いを上手く補完してるので、一緒に語りたかったのです。
甘露寺の家族に愛されていた部分が、座敷牢で光を見ずに軟禁されていた伊黒の、闇を照らす未来が見たかったです。
憎しみは継承されやすいですが、伝播しない愛もまた、愛じゃないから。