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地位も名誉やお金より、自分の純度を上げたい。

「鬼滅の刃」の社会学~その11 宇随天元~

パンクな常識人

皆様、お待たせしました。
宇随天元です。

この人を一言で言うなら

まとも。

え、これで終わったらダメ?

個性派揃いの柱の中で、外見以外はスッゴい、まともなんですよね、この方。
状況判断も論理的な所も励まし方も。

元「忍び」。
隊服の袖切って、筋肉ムキムキの体にバスキュラリティ、アクセサリー満艦飾。
武器は二刀流、しかしマチェット(山刀のような刀)。

この人は「虐待サバイバー」の多いキャラの中でも、ひときわ凄絶な過去を持っています。
そもそも、「忍者」という職業自体、泰平の江戸時代にはもう、滅びかけていました。
隠密なんかで雇ってくれる領主もいないから、ほとんどが技を使ってコソドロになったり、ひどい場合は強盗になったり。

系統で言うと、伊賀甲賀ではなく「風間」が一番しっくりきますね。
風間一族の有名人・飛加藤も身長が高くマッチョな体で、隠密行動より手品的な技に長けていたそうです。
散々、敵に幻覚見せて「この葉隠れ」で去って行く……というようには、宇随さんはなりませんでした。

宇随の父は、消え行く種族を憂い焦り、子供に無理な訓練をさせ、最後に子供同士でバトル・ロワイヤル…………もう「毒親」って言うより、クソオヤジ!あんたこそが「鬼」だよ!
兄弟同士で殺し合いさせるって、それ何か意味あんのか、訳分からん。

子供をたくさん作るようにと、妻を三人も娶らせるとか、これも何か。

ただですね、宇随さんは多分、「もう早く死にたい」と願う日も多かっただろうなぁ、と推測してます。
兄弟を殺めてしまった罪悪感。
親は「愛してくれない」どころか、競技の駒扱いだし、生き延びて頭領になったところで、「忍び」で、どーやって食っていけっつーの。
妻三人って、誰が養うの。
しかも、弟は父親のコピーと化して殺しに来る。
そら、逃げますよ。忍びの里から。

鬼殺隊の隊服脱いで、和服の着流しも派手派手なイケメン、本人は自覚なし。
これは善逸が嫉妬するのも分かります。
それにかつての経験則から、世情に明るく世渡りも上手いです。
鬼殺隊でなくても、何か普通な仕事ででも、一財産作れそうです。

愛してくれる三人の妻の存在は大きいと思います。
ここぞと言う時に、自分を顧みず犠牲に出来るのは、かつて抜け忍になった時に、この三人が支えてくれ、時には命を犠牲にしてもかまわないと、宇随さんを守ろうとしてくれたんじゃないか、と
妄想が止まりません。

そして、両極端な価値観を合わせ持たされ、それを自分で何とか浄化しようとして、いろんな人に助けられています。
生きる事を肯定してくれた妻達、トラウマの解消にはお館様、生きる喜びと死への悲しみは仲間達から。

遊郭でかまぼこ隊は、ヘンな化粧&女装させられてましたが、これはワザとでしょう。
高く売れたら、その夜の内に客を取らされるし。
普段の着流しの粋さからして、宇随さんにプロデュースしてもらったら、大抵の人は伊達男・粋女になれるんじゃ。

上手く表現出来ないんですが、「素の宇随天元」はもちろんイケメンなんだけど、「イケメンに見えるように努力や工夫している」ようにも見えます。
忍者だったから、外見をいじるのも上手いと思うんですよね。
「何が一番、自分に似合うか。自分を美しく見せるか」
てのを分かっている人です。

それと、この人はやっぱり、「大人」です。

個性が違う妻が、三人もいる訳ですから、女の裏表も理解してるし、何より、ヒトが持っている強さと弱さを見抜いて受容しています。

時代の変化に付いて行けず暴走した父親と、江戸の頃と変わってない吉原。
「鬼」よりヒドイ事が出来る「人間」という生き物。
天下御免の公認色里も大門潜れば、やれ活動写真だのカレーライスだコロッケだのと、文明が開化してる世間。
どちらの良さも知っている。
どちらの悪さも知っている。
そしてヒトには長所と欠点が併存する。

だから三人の妻を「宝」だと言い、平等に愛している宇随さん。
あっぱれ、大正の綺羅星男。

あれだけの子供・少年時代を経ても、狂う事もなく、親へ復讐する訳でもなく、心を切り離す事もなく。
それは間違いなく三人の妻と、「お館様」のおかげです。
そして鬼殺隊での日々の中で
「何でもない日々の幸せ」がどれだけ有難い事なのか知っています。

炭治郎が鬼の妹を連れてるのも、わりかし早くに受け入れてます。

「人にはいろいろ、事情があらぁな」

そんな声が聞こえてきそうです。

そんな「大人の包容力」溢れた宇随さんゆえ、人気も高いのでしょうか。
実際、色気あるし。

それと、最後まで登場を期待されていた宇随さんの弟ですが。
この弟もキツかったと思います。
心を切り離してしまわなければ、父親に殺されるのは自分な訳です。
冷淡なのは本心ではなく、解離の激しい状態、いやもう、剥離状態になっていたのでしょう。

宇随さんが里を抜けてから、一族は滅びたんではないかと思います。

こういう「家族でコミューン化」してる場合、抜けるとしつこく追いかけて来る事が多いのと、反対に自分も抜けたいから手助けして、と連絡してくるケースが多いです。
それがなかったですし。

法律上、入籍すると、現住所が他人にも見られたりするシステムなので、意外と戸籍上では独身のままだったのかな、などと考えてしまいます。

こういう「家庭から逃げた人」に、現行法って、つくづく優しくないんです。

大人の色気と優しさの溢れた宇随さんが、煉獄さんと仲良しだったのも分かります。

それについては次回。


おまけ*大正五年 遊女の揚げ代
最高級のお店で最高位の遊女で、一晩、三円です。
江戸の頃は吉原の中だけで、一晩千両ものお金が動いていた頃と比べると、安価になっています。
また、「花魁には数回通わないと云々」というシステムは江戸には廃れていて、宴会をしてからの床入り、というのも見世によって簡略化されていたようです。
明治に入ってからは、芸者遊びの方が流行ったので、そうした影響は大きかったでしょう。