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「鬼滅の刃」の社会学~その13 不死川兄弟~

ガッツだけで生きてきた

兄の実弥は、強くて顔も体も傷だらけ。
渋谷とかにいそうな……ゲフンゲフン。

隊服も着崩していて、どう見ても悲鳴嶼さんと同じ「パワー系」なんですが、意外と繊細。
そして風柱です。

子供の頃は、DV父から母親もろとも、ヒドイ目に遭ってて、その父親はわりかし早くに亡くなってます。
典型的な機能不全家族の姿です。
ただ、この父親は自分なりに妻や子供を思っていたのか、母親と一緒に地獄に行くと言う実弥に、自分が一緒に行くと言って、実弥を突き飛ばして現世に戻しています。

あれほど健気に子供に愛情を注いでいた母親が、いきなり鬼化し、弟や妹を簡単に殺す姿を見ただけでなく、自分がその母親に引導を渡すハメになった時の辛さと空虚さは、胸が痛いです。

その後、独力・単独な上、無茶苦茶、乱暴なやり方で鬼退治していました。
実際は復讐心だけでなく、あまりの無茶苦茶さに、どこかで死にたかったようにも見えます。

鬼殺隊に入って、鬼退治に存在理由や大義名分が出来ます。
しかし仲の良かった友人・粂野の死、安全な所にいて欲しかった弟の鬼殺隊入りなどに心がゴリゴリ削られていく日々。
実弥が何につけ、やたらと攻撃的なのは、こうした背景もあるかと思います。

初対面で罵倒した「お館様」に、素直に謝られます。
この時、人は複雑な物を複雑な形に抱えて生きていると知る場面、そして仲間の粂野の遺書を読む場面は泣けます。

機能不全家族」で育った人は、長じていわゆる「アダルトチルドレン」になるケースもあります。
実弥がそうならなかったのは、「果たすべき仕事」があったのと、玄弥への思い(鬼殺隊を辞めて平穏な暮らしに戻って欲しい)を秘めていたからでしょう。

思った事を口にするし、感情ですぐ動く子供っぽさがありますが、自分より弱い存在には優しく、守らなくてはいけないという、強く優しい人です。

これはもう、かなりの間、不死川家では悲しい歴史が繰り広げられていたんでしょうね。
親父が子供達殴って、母親がそれを必死で止めに入る。
貧乏な暮らし。
這い上がりたくても、学校にも行けない日々。
せめて、自分がみんなを守って養う手伝いをして、下の弟妹達は何とか幸せになって欲しい。
長男の責務。

実弥もまた、「子供時代を奪われた」存在です。

実弥は文盲に近い状態ですが、最終決戦の後は遅れてしまった勉強など、して過ごしていたのでしょうか。

玄弥との別れですが、炭治郎が言う通り、「首を斬られたら骨すら残らない」、供養も出来ないのです。
富岡義勇と炭治郎を、最初は嫌っていたのも分かります。
実弥は感情を口にするタイプですから、特に炭治郎みたいな、ベクトルが似ているのに素直なタイプは苦手だったでしょう。

後にその「長男力」を発揮し、心をほどいていく姿や、最終決戦の後、一番嫌いだった富岡義勇と飲食を一緒にしているのは微笑ましいです。

見た目は怖いですが、おはぎが好物、てのも可愛いです。

胡蝶しのぶの姉のカナエに、彼女が生前の頃、好意を寄せていたようですが、これはすごく分かります。
鬼とも共存出来ないか考えていたカナエなら、身内が鬼になったとしても、何とか対話や他の方法でコミュニケーションを取ろうとしたのではないか、少なくとも、実弥の味わった苦痛は避けられたかもしれないからです。

その想いすら伝えられないままに、もう会えなくなってしまったのは、何だか切ないです。


お腹下しても、やめられない

不死川玄弥は、実弥のすぐ下の弟として、兄と家を支えて来た自負があったと思います。
だから、実弥が母親を殺したと分かった時、最初はそれを受容出来なかったのでしょう。

彼は最初に接してくる人間に対して、ひじょうに警戒心が強いです。
女の子を平気で殴ったり、仲良くしようとする炭治郎を嫌がったり(本人には効いてませんが)、「その人となりに慣れるまで、時間がかかる」タイプだと思います。

こうした性格は、前述の「機能不全家族」で育った人には珍しくありません。
父親代わりに一家の家長としての顔も持っていた実弥と違い、他人との距離の計り方が分からないのです。

自分の腕を折ったのに、昔からの仲良しみたいに接してくる炭治郎に戸惑うのも分かります。
腕を折った事を指摘すると、「そりゃあ、女の子殴った玄弥が悪いよ」と軽くあしらわれるシーンがあります。
これは正解と言うか、上手い対応です。
「空気を読むのが下手な炭治郎」の遠慮ない接触は、これ以降、玄弥の心を解きほぐしていきます。

以前は兄の実弥に充分に可愛がられていたのでしょう。
実弥ほど「子供時代を奪われた」時期が長くはなかったのだと思います。
その「守られる側」としての気持ちが、母親の件で、つい罵倒という形になったのですが、これは仕方ないです。

兄への接し方だけでなく、時には戦闘のコツまで教えてくれる炭治郎に、玄弥は兄と違う形での安心感や信頼を寄せるのも分かります。

ここで変な「依存心」を持たず、自分の力を極めようとするのは、玄弥には剣技の才能がないのを自覚しているからです。
アダルトチルドレン」は自身を客観的に見る事が出来ず、不全感を、誰かへの依存心で埋めようとして、対人関係が上手く結べない人が多いのですが、玄弥にもそれがありません。

最終決戦での捨て身の、それでいて考え抜かれた行動は、あらゆる可能性を自力で考え、結果も見越しての物でした。

兄の実弥に謝り、幸せを願います。
彼が自立出来ていたのは、この時のためだったからかもしれません。
そんなに時間が経っていないのに、彼岸で弟妹達と幸せそうにしている玄弥を、実弥は此岸で見ています。

呼吸が使えず、剣技が出来ず、鬼を喰うという異色の方法で自分を鍛えた玄弥が、人として、彼岸にいた事に、安心しました。

この兄弟のすれ違いやアレコレは、実は時透兄弟とも重なりますが、実はある兄弟のあり方への示唆ともなっています。

玄弥も実弥とよく似た外見で、渋谷とかにいそうな……ゲボゴボ(むせた)。


アル中の父親による虐待から生還した女性。
前半は合コンでのモテテク。これが使えるしスゴい。