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「鬼滅の刃」の社会学~その18 童磨~

愛あるサイコパス

童磨は無惨の配下の鬼の中でも、ひときわ個性的です。
強いし、血鬼術も派手で破壊的、ルックスも良く、「万世極楽教」の教祖。
加えて、「女しか食べない」とゆー気持ち悪さ。

白橡色の髪と瞳で生まれますが、大正時代にこうした髪色はかなり異端に、あるいは美しく見えたでしょう。

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が、その人間としての過去は凄惨かつ悲しい物でした。

両親が童磨の外見から、幼い頃から教祖に据えます。
いわゆる「搾取親」です。

調べましたが、政府が仏教から、いろんな役割を奪い、神道を国の中心にしようとしていた時代。
にも関わらず、民間から派生したカルトは、小規模なら黙認されていました。

そして、信者がそこそこ、たくさん来るようになり、童磨の両親は壮絶な夫婦ド喧嘩の末、やはり壮絶な最期を遂げます。

異論もあるかと思いますが
「子供をおいて自死
「子供が第一発見者に簡単になり得る場所で(一般的にはトイレ・台所・居間)、親が自死
は形を変えた
虐待
なんですよね。

この経験が幼い童磨を完全に壊したのが分かります。
悲しみも沸かず、現場の後片付けの段取りを考えている幼い童磨は、もう解離の典型的な精神状態です。

長じてからは鬼になり、何の罪悪感も持たずに女性を殺しては食っていた日々。

そんな中、当時、赤ん坊だった伊之助を抱いて、母親の琴葉が童磨の宗教施設に飛び込んで来ます。
夫と姑のDVで酷い怪我を負っていた琴葉は、裸足で着の身着のままやって来て、保護を求めます。

琴葉を「頭の残念な娘」と語る童磨ですが、意外な事に、この二人を保護し、殺して食べたりせず、寿命が尽きるまで側に置いておこうとします。

どうやら童磨は、琴葉には少し特別な感情を抱いていたようで、自分の正体は隠し、この母子の生活を助け、笑顔で過ごしています。

しかし、正体がバレ、童磨は必死で琴葉を説得しようとします。
これも多分、童磨には異例の事です。
従おうと逆らおうと、人間など問答無用で殺戮し食べていた鬼なのに、琴葉には「分かってもらおう」とします。

だからこそ琴葉の、裏切りにも等しい豹変が許せず追い詰めます。

最後の最後で、胡蝶しのぶに恋心を抱くのですが、これも唐突です。
パッと見、全然違うキャラですが、胡蝶しのぶと琴葉には、大きな共通点があります。

童磨が嫌いな事
自身を犠牲にしても助けたい他者がいる事
自分の死を覚悟している事

そして胡蝶しのぶは、少しサイコパス気質と言うか、本心を切り離して動いてる部分が多いので、その辺りに親和性があったのかもしれません。

もし、琴葉と伊之助との安寧な日々が続いていたら、どうなっていたのか。
自分の母親にはなかった物を、全て備えている琴葉です。
結婚や宗教団体の幹部にするという形で、守ろうとする気がします。

「ヒトであるからこその母性」
を持つ琴葉なのを、童磨は理解しています。
だから、ヒトのままで保護していたのです。
けれど琴葉は去って行こうとします。
かつて、自分の母親がそうしたように。

ここに老いる事なく、さりとて目的もなく、永遠に生き続けなくてはならない鬼の寂しさや虚しさが垣間見えます。

童磨はサイコパスなのは疑いありません。
しかし、ほんの少しだけ、ヒトの持つ慈愛や恋愛感情が残っていて、それを琴葉と胡蝶しのぶに使い切ってしまったように見えます。

過去をわざわざ伊之助に伝えたのも、自分の所に居た時は、赤ん坊の伊之助を、それなりに可愛がっていたのかもしれません。

その最後は、苦しくも悲しくもない物でした。
が、こうなってしまったのは、童磨だけのせいではないのが分かるので、物悲しいです。