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「鬼滅の刃」の社会学~その21 物語での小道具~

ヒットする漫画やアニメ、映画などの世界では、小道具が効果的に使われています。
この小道具が上手く使われていない物語は、駄作と言っても過言ありません。

それは何かの象徴であったり、物語のスパイスになったり、転換を指す事もあります。
「マクガーフィン」と呼ばれる小道具ですが、それは必ずしも物でなくてもかまいません。
それを考察していきます。


「継国兄弟の笛」

言うまでもなく、この笛は継国兄弟の絆を形に変えた物です。
そして、もう1つの側面ですが、やがては鬼と化してしまう兄・巌勝の
「子供の頃の純真で真っ直ぐな心」
の象徴でもあります。

巌勝は「ガラクタ」と言っていますが、なら、何故それを何百年も持っていたのでしょう。

縁壱の遺体から、かつて自分があげた笛が出てきた時に、嫌いな憎い弟が、何よりも誰よりも、兄の自分を大切に思っていてくれた事に巌勝は気付きます。
そして、自分も嫉妬の裏側で、弟を思っていたのです。

それを真っ二つにしてしまったのは他でもない、巌勝でした。
そして、断たれた絆は戻りません。
だから、巌勝は一人で地の底へ行かなくてはならなかったのでしょう。

作中で、ひじょうに上手い使われ方をしている小道具です。


「剣士の痣」

『モノ』ではないのですが、それゆえに象徴的です。
痣が出た物は身体能力が格段に上がります。
しかしそれは『寿命の前借り』なので、若くして死ぬ定め……なんですが、気になる事があります。
この痣は、鬼の紋様と似ています。
心肺がリミットを超えて、それに耐え得る者に発現するのですが、この作品での鬼はゾンビや吸血鬼に近い存在です。
つまり、鬼に近しい存在になっているのではないか、それぐらいしないと鬼と対等に戦えないのではと思える印でもあります。

炭治郎には痣が出る前から同じ場所に、痣と似た形の火傷の痕があります。
また、炭治郎の父親も同じ場所に薄く痣があります。
親子して同じ場所に、と気になります。

炭治郎の父親の場合、「日の呼吸の剣士」の素質が多少なりともあったのかもしれません。
ただ、体を壊してしまい、それ以上の進化が出来なかったのではないか。
殆ど病床にいて、なのに熊を斧一つでフルボッコに出来るという所から、本来は並外れた身体能力があったのでしょう。

あるいは、その素質が体を弱くする遠因になったのかもしれません。

また、炭治郎は鬼殺隊の選抜試験で火傷痕に更なる傷を追います。

何だか、見えざる手が

痣を出現させようと何回も機会を与えている

ような気がします。

ところで、主人公が最初から何の訓練もなしに「選ばれた強い力を持っている」という『チート能力』があると、その作品はつまらなくなります。
最近のラノベの「転生物」でも、チート能力の扱いは変化しています。
十年くらい前までは「パラメーターやスペックが高い状態で転生する」のが多かったのですが、最近は「主人公そのものは普通の人」です。
代わりに、転生先の世界や歴史を詳しく知っている、あるいは転生前に何らかの職業や知識のエキスパートだった、という設定が増えました。
世界観を知っている場合は、その世界の弱点を克服する、仕事や勉強でエキスパートの場合はそれを職業にして生かすという話が増えたのは必然でしょう。

炭治郎の火傷痕からの痣は、鍛練や大きい任務や戦闘時に、炭治郎が必死に考えたり何かに気付いた時や気合いMAX時に濃くなります。

何の必然性もなしに、ましてや鍛練もなしに、主人公になった訳ではない、という事でしょう。

少し前の転生物の主人公とは違い、努力を必要とされる、そして試練を乗り越えなくてはならない、言い換えると

あなたもどこかで、主人公になる可能性がある

という暗喩を込めた小道具です。


「日輪刀」

明治には禁止された帯刀ですが、他の武器ではダメなのか、考えてみました。

不死川玄弥みたいに銃じゃダメか。
弓やボウガンは……持ってると目立つし、使いこなせるのに時間がかかりそうです。

ただ、日輪刀はいくつもの条件を経て、たくさんの人が関わり、ようやく鬼を倒す事が出来る刀に仕上がります。

持ち主によって刀身の色が変わる、これはアーサー王の伝説に近いです。

謎なのは、千寿朗君が刀身の色が変わらなくて落ち込むエピソードです。
選抜試験を受けていないであろう千寿朗君が、どのようにして日輪刀を手に入れたのか。
鍔の形からして、ニーチャンのではないし、もしかして煉獄父上のでしょうか。

そして帯刀禁止の時代に、どうやって他人の目を誤魔化していたのか。
アニメを見る限りでは

堂々と帯刀してるし。

炭治郎の刀身が黒く変色したのは、後の伏線なんですが、これはアニメだとド派手になりそうですね。

また、いろんな特色のある刀が出て来ますが、甘露寺や伊黒の持つ刀を再現した現役刀鍛冶がいらっしゃいます。
日本刀が好きな人には堪らん世界です。


「縁壱零式」

訓練用の絡繰なんですが、モーションの切り替えが出来るわ、コピー不可能だわ、しまいには刀が出て来るわ。

パッと見、「キカイダー」みたいです。

「はじまりの呼吸の剣士」の動きを再現し、戦闘訓練のために作られた究極の絡繰。
そして、中には「滅」の一文字だけ刻印された、極めて純度の高い鉄の名刀。

この絡繰との訓練で、炭治郎は明らかに強くなっているし、刀も手に入れて戦闘能力が上がります。
他の柱も、この絡繰の存在は知っていたし使用していたのに、まるで炭治郎を選んだかのようなタイミングで壊れ、刀が出てきます。

作り手は、縁壱零式を壊せるほどの剣士に、この刀を与えるつもりだったとしか思えません。
選ばれし者が持つ剣、なのでしょう。

この刀も縁壱零式も、作成した人の話が出てきません。
ただ、縁壱へ、ものスッゴい愛や尊敬がないと作れないシロモノです。
これを作った人の話をぜひ読んでみたいです。

ただ、刀が出てきた後、どうなったんでしょう。
刀鍛冶の皆さんの力で、修復されてるのを願います。


「炭治郎の耳飾り」

継国縁壱は、炭治郎の先祖にあたる炭吉に餞別として、この耳飾りを贈っています。
子供の頃に母親が付けてくれた、愛情の証でありアイデンティティーなのに、です。

それはともかく、この耳飾りは「日の呼吸」と一緒に、代々に渡って受け継がれて行く事になるのですが、耳飾りを着けているのは言わば「日の呼吸」の継承者です。

刀鍛冶の里で「遺伝子の記憶」みたいな物が炭治郎に、縁壱と炭吉との過去を見せているのではないかと言われますが、この耳飾りも多少は影響している気がします。

別にこの耳飾りにスゴいパワーがあって、とかではなく、「継承者」である者に、「日の呼吸」の型を、夢などの形で見せたりしてきたのではないか?
だから数百年経ても、神楽舞いに形を変えても、「日の呼吸」は細かい所まできちんと伝わっていたのではないか、と思います。

また、日本人がピアスをしていたのは古くでは縄文時代までで、それ以降は体に穴を開けるという行為は避けられていました。
「親からもらった体に」とタトゥーすらタブー視して、体を弄りたがりません。
それとは別に、傷や穴の痕から「気」とかパワーが抜けていくという考え方があります。
戦いに勝つために、ゲンを担ぐ戦国時代。
縁壱の母親は、縁壱を武士にする気が本当になかったのでしょう。

ピアスが一般的になるのは、第二次世界大戦後の更なる後です。

んじゃ宇随さんは?と言われそうですが、この人は特例です。

長い間、こうした耳飾りを着けている人は本当に稀で、それゆえに着けている人イコール「日の呼吸の継承者」として、何らかの恩恵を受けているように見えます。


「青い彼岸花

作中最大最難問の謎アイテムです。
これそのものの説明については、単行本の欄外や最終回で明かされているので、そこは避けておきます。

青い薔薇同様、自然界ではまず、存在しないし、人工的に作るのも不可能と言われているブツ(?)ですが

白い彼岸花

は、たまに存在します。

百合系の植物は、他の一般的な花と同じように、受粉で次の世代を作るのですが、近くに自分以外の花がない、つまり自家受粉しか出来ないとなると、根球(茎)を地下で増やして次の季節に期待します。
自家受粉はその種を弱くしてしまうので、その予防策です。

それと花弁の色は環境に作用されやすいようで、白い彼岸花はいくつかの偶然が重なった結果です。
しかも一代限りです。

このレアケースの根茎を採って増やしてアレコレしたら「青い彼岸花」を咲かせるのは可能ではないか?
と思うのですが、遺伝子操作しても難しいそうです。

何らかの環境要因が重なって、しかも群生も可能となると、いろんな奇跡が働いたのでしょう。
これを薬として無惨に飲ませた医者も、相当なチャレンジャーだと思います。

ただ、一年の内ほんの数日、日の下で数分間しか咲かないという儚さから、使い方によっては

鬼を撃退出来るアイテム

となり得たような気がします。

珠世さんの「鬼を人間に戻す」おくすりは、案外、この青い彼岸花か、その亜種から作ったのではないかと想像してます。
他の材料が思い付かないし。


他にも、各キャラの羽織の模様の意味、鎹烏(一部、雀)の名前の由来、それぞれが使う呼吸の違いとその理由などがありますが


分析、私には無理です。

キャラの名前からして伏線だらけです。

ファンの皆様におかれましては、自由な発想の翼で考察お願いいたします(丸投げ)。


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