夜になっても読み続けよう。

地位も名誉やお金より、自分の純度を上げたい。

ある行旅死亡人の物語 リモート読書会③

水(みず) … 元看護師・61歳。読書傾向はカオス。
真一(しんいち) … 40代会社員。理屈っぽく、好きなのは社会問題や社会派ミステリー。
乙女(おとめ) … 20歳女子。不思議ちゃん。ラノベから学術書まで読む。
グランパ … 70歳。古典文学が好き。引用も好き。

 

水「この女性は、住民票もなく、なのになぜ『タナカ』姓を名乗っていたのか。」

真一「……もしかして『タナカリュウジ』こそが、北朝鮮工作員だったんじゃない?」

乙女「工作?耕作?」

グランパ「おーい、どれも違う漢字に聞こえるぞ。

スパイや成りすまし。『タナカリュウジ』という人物に“背乗り”して、夫婦やカップルを装っていたのかもしれん。

あるいは『タナカリュウジ』そのものが、作られた架空の存在だったとか」

乙女「確かにーっ」

グランパ「もしそうなら、老いてスパイ活動ができなくなった、あるいは北に帰る事になったとかで、その“手切れ金”として大金を渡したのかもしれん。」

真一「年金も、手の怪我の労災も断ってるし」

水「介護施設に入るには十分な額ですよ。そこそこ良い所に入れる。それこそ、成年後見人制度を利用して、財産の管理もしてもらえるし」

乙女「ただ、あちこち弱ってはいただろうけど、致命的な病気はなかったんじゃないかな?治療しないと死ぬ病気って、どんなのがあるの? 水さん」

水「そうね……インスリン打たないと危険な糖尿病とか、人工透析が必要な腎不全とか。
その感じじゃなさそうね」

乙女「じゃあ、ギリギリまで元気だったんだ」

真一「にしても、生活圏での目撃情報が少なすぎる。銭湯とかスーパーとか、どこかで見られててもおかしくないのに」

グランパ「たぶん、銭湯も日によって変えてたんだろう。

グーグルビューで探したら、アパートの近くに数件、銭湯があった」

乙女「スゴイ。ハイパー・シニア」

グランパ「(無視)スーパーも、今はコンビニがある。
年寄り一人の買い物なんて少ないもんだよ。

ただ、疲れる。女性の高齢者は大根一本でも“ヒーハー”するくらい疲れる。と幸田文がエッセイに書いていた。
こういう暮らししてた人が、Amazonの配達なんぞ利用してたとは思えないし、部屋には新しい物が、殆ど残ってない。目立たないように、食品や日用品だけは少しずつ買い物してたんじゃないか。一人暮らしの食事の買い物はそんなに多くはないだろう。酒も嗜んでなかったみたいだし」

水「確かに、ビールは重い……」

(全員、爆笑)

乙女「逆に、銭湯で、『右手に指がない女の人』って、覚えてる人がいないのが不思議」

水「他のお客さんの少ない時間に行ったり、タオルでなるべく隠していたりしたんでしょうね……。

普段は手袋してれば、意外と分からないし」

真一「プリント写真には、あちこち旅行に行ってる様子が伺えるけど、右手の指の欠損事故は、『タナカリュウジ』と離別した後なのかな」

乙女「『写真を撮ってくれる人』がいなくなったから?」

真一「鋭い。

何より、『タナカチズコ』さんの笑顔が、『心許した人に向ける笑顔』な気がする」

乙女「本当に、嬉しそうな笑顔だもんね」

グランパ「え"え"〜。

そういう考察は苦手だなぁ。近いうちに、婆さんの写真撮ってやろう」

水「『お化粧するから待って』と言われても怒らないように。

写真からは、温泉旅館や寺社が特定されてます。けど……温泉や寺社好きだったのは、『タナカリュウジ』の好みとは思えないんですよね」

グランパ「この頃には、ディズニーランドもないし、遊興出来る場所が少ないから、二人でお出かけとなると、どうしても、こういうシブい方向になるんだろうね」

 

★最期に

グランパ「『タナカチズコ』さんは、幸せな人生だったのか?と思う」

真一「孤独死とは言え、一時期、大切な人と過ごし、あちこち旅行し……写真の笑顔が語ってます」

乙女「思い出を大切に、写真やぬいぐるみお金もだけど、大切にしながら生きてたのか……」

水「老いて、一人暮らしの場合、血縁関係者がいても『迷惑かけずに一人で死にたい』という人が多いのよね」

真一「『タナカリュウジ』がいなくなった時に、『自分の人生は、もうこれでいい』と諦観したんじゃないのかな。

金あるのに、美食も旅行も、お洒落もせずに。右手の指の事もあるけど」

乙女「だとしたら切なすぎるよぉおお!」

グランパ「まとめを水さん、お願いします」

 

★まとめ

水「『ある行旅死亡人の物語』ですが、大金を残したまま亡くなった、この身元不明の女性は一体、誰なのか?

このお金は何なのか?

どうしてこうした暮らしをしていたのか?

謎が次々と出て来て、解決しても解決しても、なルポタージュです。

新聞記者二人による文章は、心地良いテンポで書かれており、普段本をあまり読まない方でも、一気読みさせる迫力があります。

そして、何より良質なミステリーのような内容です。

さて、『タナカチズコ』さんとは誰だったのか?

読者諸兄、ぜひ、お手にとって確かめて下さい。

『人が生きるとはどういう事か』といった、哲学にまでテーマが広がり、その意味を考えさせられる読後感を残すでしょう」

 

★閉会

グランパ「上手いな、まとめ」

真一「……『生まれ変わりたい』と思う人間の性(さが)も見出だせます」

水「真一さん、何か悩みがおありなの?」

乙女「合コンでもしよっか?」

全員爆笑。

水「次回は」

全員「頼むから『ムカデ人間4』とか止めてくれ、『サメ映画』も止めて〜っ!!『リング・シリーズも』止めて下さ〜い!」

 

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