恋愛妄想~5.帰還~
雨が続くのに
旅行予定の千葉県某所から
おこんにちは。
1回目ブログ。http://slowstudy.hatenablog.com/entry/2015/07/21/131344
「恋愛妄想」
についてですが
「被愛妄想」
とも呼ばれている通り、
「自分は芸能人の○○さんから愛されてて
付きまとわれてて
仕方ないから交際を始めた」
と本人が主張するのも
大きな特徴です。
逆に言い換えると
「その芸能人を好き過ぎて
おっかけて何とか交際をしたかった」
と言う人は
妄想ではなく
現実や自分をきちんと客観視出来ています。
100人、特定の相手への恋愛妄想を持つ人がいたら
(統合失調症などのベースになる疾患がない場合)、
治るのは数人ではないかと思います。
妄想まで行かない普通の人でも
70才80才になっても
「自分はまだまだイケてる」
と思ってる人は多いです。
とある職場のQちゃんは
もうすぐ20才で
「某アイドルの恋人」
と公言するせいで
職場では何となく浮いていました。
人事異動があって
新しく配属されて来たO君は
二十代半ばの
すっごいイケメン
でして、
仕事も出来るし
社内では女子からロックオンされてました。
そんなイケメンが同じ部署にいても
目もくれないQちゃんは
ネットでコンサート情報を探して
チケット購入の抽選に当たらないかと
やきもきする日々。
残業してた時に
コーヒー片手に
O君が聞いてきました。
「Qさんって、アイドルの◆◆の熱烈なファンだって?」
Qちゃんは
ここぞとばかりに
二人は付き合ってるだの
どこで知り合ったかだの
現在は彼が忙しいから
Twitterで交流してるだの
電波垂れ流しの話をしました。
ここで、たいていの人は
「ふーん。すごいね(棒)」
だとか
「ええ?何それ。妄想系?(小バカにした笑い」
だとか
冷ややかな返事をして
その後は距離を起きます。
O君は何故か
興味深そうに
うんうん聞いてます。
「…………それで自撮り写真アップしたら、
いろんな人から
『ブス』
ってリプやメール来て…………」
と、しょげるQちゃん。
O君は言いました。
「そう?
オレはQさん、
普通に可愛いと思うけど」
びっくりしたのはQちゃんの方でした。
「男の人ってAKBみたいな子が好きなんでしょう?」
と聞くと
んーん、とO君は首を降ります。
「確かに前○敦○とか綺麗だし可愛いよ。
けど、
その先がない。
綺麗で可愛い以外に何もないような気がすんだよね。
しかも、
綺麗で可愛いも
歳を取ると劣化するし」
「……………………」
今までにないリアクションに困るQちゃん。
「奢るから、ラーメン食いに行こう」
とラーメン屋へ。
それ以来、
さりげない形で
何かと声をかけて来るO君。
「ディズニーランド行こうよ」
「え、あの、休みの日はCD聞いたりしたいし」
「若い女の子が
そんな休日ばっかり送ってたらキノコ生えるよ!
じゃあ、CDショップ行こう。
アイドルも良いけど、
洋楽もいいよ」
とかなんとかで
二人でおでかけ。
おすすめの音楽を聞いたり本を読んだりして
確かに
世界にはいろんなエンターテイメントがあるんだなぁ
と感心するQちゃん。
お弁当を作って行ったら
「うわっ!旨そう!
オレ、女の子の手料理、初めて!」
と、モリモリ食べるO君。
こんなイケメンで
女子の手作りお弁当初めて
って事はないだろう
と思っていたQちゃんですが
実はO君は
「これだけのイケメンだから、
すでに彼女がいるか、
女子へのハードル高い人に違いない」
と勝手に誤解されてるタイプでした。
で、ある日、
「Qちゃん、オレと
本格的に付き合わない?」
と言われて激しく動揺します。
「私には◆◆君が…………」
「分かるよ。
女の子みたいに綺麗な顔した男の子が
女の子には出来ないジャンプやダンスしたり、
汗の匂いも
危険な空気も出さない。
けれど
お笑いの才能は
オレの方が上だ!」
何だかよく分からない求愛でした。
ここまでのポイントです(はいー、試験に出ますよー)。
O君は
Qちゃんの
妄想を
肯定も否定もしないようにしていた
って所です。
これはひじょうに大切で
なおかつ難しい対応です。
ただただ、うんうんと聞いて
「具体的にアイドルの◆◆と
どんな会話してるの」
みたいな深追いもしていません。
もし、やっていたら
妄想を悪化させます。
そして、
アイドル以外にも
世界にはいろんな物があるという事や
Qちゃんの
地味で単調な仕事も黙々とやる所や
家庭的という長所を
リアルに知って褒めて受け止めています。
それに
アイドルのチケット情報とか探すな!
と
対象から強制的に
引き離す事は決してしていません。
やがて、
少しずつ、
アイドル◆◆君中心の生活から
現実にシフトチェンジして行き、
コンサートチケットの申し込みも
CDを聞く時間も減って行き、
「自分が選んであげたの♪」
という尊大さとプライドが減り、
「誰かに選ばれる」
「守ってもらう幸福」
を感じて、
いつしか
アイドル◆◆君の恋人だとは
言わなくなって行きました。
そのアイドルが
不祥事を起こして
事務所解雇など
テレビや雑誌で騒がれていた頃、
Qちゃんは
O君と水族館に行ってて
沖縄旅行でスキューバーしようと
張り切っていました。
アイドル◆◆君の不祥事を聞いて
残念だとは思ったけれど
悲しいとは思わなかったようです。
喧嘩やら
カップル特有のゴタゴタもありましたが、
付き合い始めてしばらく、
結婚し、
すぐに子供が産まれました。
アイドル◆◆君の事を
遠回しに聞くと
妄想だったのかどうかは分からないけれど、
何だか遠い夢を見てたような気がする
いや、やっぱり妄想だったのかも
と言ってました。
恋愛妄想に至ったきっかけは
中学の頃のイジメが原因(らしい)です。
が、
大人になった今では
そうした傷も受け入れる事が出来ます。
そして、
ネットの世界では
通りすがりに
遠慮なく痛め付けて来る人がたくさんいますが、
現実では
喧嘩も含めて実りある対人関係や
コミュニケーション能力を育てる事が出来ます。
何かが原因で
現実から逃避し、
妄想の恋愛に逃げた人への治療が難しいのは
「辛い現実」
に引き戻すと本人が壊れる可能性が高いからですが
「現実も幸せ」
であれば、帰る事は出来ます。
そして、結婚や出産は
大変な労力と
場合によっては苦痛すら伴うのに
Qちゃんは何だかんだ言って逃げませんでした。
そこには
運命からの贈り物・O君がいたからです。
素敵な恋愛と結婚が
治療になったのは皮肉ではありますが、
子育ての大変さの中で
完全に自分を取り戻した、
子供のためには自身の命すら捨てられる母親
になったのも大きいでしょう。
これはアイドルに捧げる「無償の愛」より大きい愛です。
これらの変化を経て、
私は
人間の強さ
てのに感動しました。
二人に幸あれ、と願っています。
いつも読んで下さって
ありがとうございます。
これから帰省です。
Qちゃんの子は男の子でしたが
「将来、アイドルヲタになったらどうする?」
と聞いたら、
「いいよ、ヲタ芸を極めてもらう」
と言っていました。
水