「鬼滅の刃」の社会学~2 メインキャラとお話~
物語が存在すると、その中心には主人公や様々な役割を担うキャラがいます。
「鬼滅の刃」のテーマの1つに
「志を繋いでいく」「自己犠牲」
等があります。
主人公は「運命と戦い」「宿命に抗う」者。
物語の決定権を握っています。
竈門炭治郎は文句無しで、主人公です。
ただ、主人公でありながら、人格の中心部分に芯があるように見えません。これについては後述。
主人公と言えば「ヒロイン」。
これは妹の竈門禰豆子が担っている時もあれば、栗花落カナヲが役目を果たしている時もあります。
つまり、「ヒロインが不在」で話が進む事も多いのが「鬼滅の刃」の特徴です。
何故、こんな事になるのか、そしてそうなっても話が進む理由は
実は「鬼滅の刃」において
主人公は1人ではない
という事です。
次に、物語を進めるにあたって必要なのが「トリック・スター」です。
「主人公がラスボス倒しました。ヒロイン助けました。終わり」
だと「お話」として、つまりません。
血肉を与え、物語の「不確定要素・要因」が必要になります。
それが個性豊かな「柱たち」なのでしょう。
しかも、その柱の一人一人でさえ、一冊本が書ける程の多層的な人格と、それぞれのヒロイン、人生を抱えています。
スピンオフの形で、コミックや小説が存在するのも分かります。
炭治郎は山の中で、炭焼きを生業とし、貧しいながらも家族で仲良く暮らしていました。
立身出世して弟妹達に贅沢をさせてやりたいとか、家を一軒買ってオカンを楽させてやりたいとか、若い人にありがちな野心がありません。
つまり、変化を好んでいません。
鬼と化した妹を殺す、と言う富岡義勇に命乞いする時、左方向に土下座をしています。
左方向は過去やネガティブな感情の表現です。
だから、命乞いが叶わないと知るや、右方向に向かって、義勇に戦いを挑みます。
舞台などではよく使われている
そうした炭治郎を「鬼殺隊として生きていく事」への強いモチベーションを、柱達はいろんな方面から与えてくれます。
そして、「かまぼこ隊」と呼ばれる仲間、我妻善逸、嘴平伊之助は、捨て子であり帰る家も家族もいません。
「取り戻したい物がない」という虚無を抱えています。
それを炭治郎は、持ち前の長男気質で癒そうとします。
こうした存在もまた、トリック・スターの一員であり、「別の側面からは主人公である」と言えます。
それどころか、敵である「鬼」もまた、淋しさや悲しみを抱いている事を、その優れた嗅覚で炭治郎は知ります。
そして、塵になっていく鬼の手を握り、背中をさすり、時には話しかけたりまでします。
最初は素直な同情心からでしたが、途中からは「こんな悲しい存在を、これ以上作ってはいけない」というモチベーションになります。
物語には「賢者」も必要です。
主人公がどこへ行って何をすればいいか分からなくなった時に、道を指し示す役割を果たします。
この役割も、柱達が掛け持ちしていたりしますが、基本的には、「お館様」、鱗滝さんや桑島さんが役割的には正しいでしょう。炭治郎を強くするために鍛えてくれる、錆兎や真菰もそうです。
特に、桑島は善逸が「雷の呼吸」で「一の型」しか出来ない事を強く肯定します。
基本の型でしかない物を「六連」「神速」と進化させるように導きます。
さて、では「巨大な敵」であるラスボス・無惨は何の役割を果たしているのでしょう?
次回、乞うご期待!