夜になっても読み続けよう。

地位も名誉やお金より、自分の純度を上げたい。

「鬼滅の刃」の社会学~その3 「悪」の役割~

ラスボスの鬼舞辻無惨は、耽美な顔、優雅な所作のキャラです。

が、

「小物界の大物」

と呼ばれる理由が話を追う事に分かります。

少し、話が過去に戻ります。
ガンダムがあれほどの人気が出て、アニメや声優業界が賑わったのは、ひとえにシャア・アズナブルの登場と人気が、一因であると思っています。

「カッコいい悪役」
というものが初めて出てきたのです。

それまでの悪役は、見るからにブッ飛んだ外見や言動で、けれどチマチマとした悪事をしていたりと、共感出来ないゆえに悪役になり得ていました。

そこにスマートさや紳士的な物を入れ、悲哀も入れます。
例えば
「自分の星が汚染されてしまった。いけないし間違ってると分かっている。
しかし、地球を侵略するしか自分の星の人々を救う方法がない」
など、「『悪役』には『悪役になる理由』がある」と肉付けしたのです。

無惨は人間界に紛れて生活しています。
ある時は会社社長の青年、ある時は製薬会社の跡取りの子供、ある時は芸妓の女性に擬態しています。
その理由は「青い彼岸花」の情報収集のため、そして、お金。

お金!

アンタ、部下一杯いるじゃん!
そいつらに任せておけばいいじゃん!
なんで「鬼の始祖」たる物が、「親方ひとり仕事」してんの!?
(注*社長や会長などのトップが、本来やらなくてもいい雑用などをしている様子。
トップが部下に仕事を任せるのが下手な証明。
極端な場合、組織が潰れる)

お金の魔力に振り回されている悪の権化。

これは相当、カッコ悪いです。
「悪」は悪を守り抜けるから、カッコいいのです。
それは「善や正義を貫く」に匹敵する強さと美学が必要です。
無惨は部下を信用していないのと、有史以前からの存在ではないため、「悪の矜持」みたいなもんが希薄です。

この「自分以外を信じていない」のが、無惨の大きな弱点ですが、「変化を求めない」という点においては、初期の炭治郎と同じです。

そして、鬼になったプロセスでの悲哀が感じられません。

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また、無惨には「叶えたい思想や改革」などがないように見えます。
「地球を鬼で埋め尽くす」
とか考えるのが往来の悪役ですが、無惨は違います。
その行動原理は「ただ、ひたすら生きたい」です。

赤子の頃から何度も死の淵をさ迷い、大人になる事は難しいと言われています。
子供時代も少年時代も奪われて、病の苦痛に耐えるだけの日々、うっかり、鬼になってしまいます。
見方を変えると、「精神的な成長に必要な時期に、しかるべき経験」がない訳です。

だから、死を賭して戦いを挑んでくる鬼殺隊の行動原理が、さっぱりワケ分からんのでしょう。
その「奪われた子供時代・少年時代」の先にあった物が、太陽の克服。

そして……この辺りは後述します。
ただ、後の主人公を含めたキャラ達の成熟と変化、一向に変わろうとしない無惨の対比は、駄々をこねている子供そのものです。

最終決戦のその先、もう「バトル」とは呼べない状態になった時です。
無惨の生きた千年が、命や志を継いで来たヒトより、いかに弱く幼稚であったかが分かります。

自分以外を信じて来なかった無惨は、孤独のまま、阿鼻地獄へと墜ちます。

自分しか信じないという事は、自分以外の全てから信じてもらえない

という事だからです。
1つだけでもキツイのに、セットで辛さ数倍増です。

ここで疑問です。

本来ならば、変化をそれほど求めなかったはずの炭治郎。
例えば妹を人間に戻せなかった、あるいは自身が現世に戻れなかったという「Bad end」に向かう分岐点がいくつもありました。
そうならなかった理由。

ここにも、この物語を名作にしたキーがあります。

それについては、次回、乞うご期待!